『アニメで知る中国』どうなる日本の2次元コンテンツ?中国ゲームレイティングとその影響について

『アニメで知る中国』へようこそ!ミミム(北京MYC)です。

皆さんはレイティングシステムをご存知でしょうか?各メディア機構がメディア鑑賞に対する年齢制限の枠、およびその規定してる内容です。日本ではゲームは「コンピューターエンターテインメントレーティング機構」、「コンピュータソフトウェア倫理機構」や映像倫の「日本コンテンツ審査センター」が良く知られていると思います。世界各国にもそれぞれ独自の倫理機構がありますが…。

実は中国にはそれに該当したものがありませんでした!

しかし、6月26日、人民網が開催した「2019遊戯企業責任フォーラム」にて、人民網が中国ゲーム会社10社と共に「ゲーム適齢掲示草案」を発表したというニュースがありました。今回は、この革新的なニュースを取り上げたいと思います。

第17回『アニメで知る中国』やっときた?中国ゲームレイティング[動漫知中国]

まず、日本のゲームレイティング機構、CEROの成り立ちについてWikipediaを引用すると、2002年のCERO設立以前は、ソニー・コンピュータエンタテインメント、セガ、マイクロソフト、任天堂の各ゲーム機メーカーによる独自基準を元に審査を行っていたが、同内容のゲームでもプラットフォーマー間で審査基準に食い違いが生じた為、こうしたメーカー別の基準を統一し、業界団体レベルで執っていくことでゲームソフトに対する批判に応える目的の他、他国より遅れていたレイティングを補完する目的のために設立された、と書かれています。

今回、人民網と中国のゲーム会社10社が協力して「各年齢で遊んでよいゲーム」の草案を提出した流れをみると、日本のレイティングシステムの成り立ちに似ている気がします。では、今回レイティングを主導している人民網とは何でしょうか?

Wikpediaを引用すると、中国共産党中央委員会の機関紙『人民日報』で知られる中華人民共和国のメディア、人民日報社が1998年12月1日に開設したニュースサイトで、日本語版と日本版の2つのサイトがある。日本語版では中国で発生した重大ニュース、中国の経済、社会、科学教育、文化、観光などの情報を日本語で提供するニュースサイト、いっぽう日本版は日本・中日関係の報道を専門に中国語で提供するニュースサイトである。

つまり、中国の官製Webメディアです。つまり、今回の話は中央委員会が仕切っているとも言えます。中国共産党中央委員会とは中国共産党の最高指導機関で、中国共産党全国代表大会によって選出され、党大会の閉会期間中は党大会を代行して党を指揮する機関です。しかも最高指導者の「中国共産党中央委員会総書記」も中央委員会が選出しますから、本当の意味で国のトップ集団です。

中国では以前からレイティングに関する提案が頻繁に中国の国会、両会で取り上げられてきましたが、今まで明確な議論はなされてきませんでした。しかし今回中央委員会の機関紙が旗振りとなると、現実味のある話として、業界を騒がせています。しかしなぜ、レイティングは今まで中国で実施されてこなかったのでしょうか?諸説ありますが、ここは中国法の専門家である高橋孝治(たかはしこうじ)先生に意見を聞いてみましょう。先生は、中国の法律系国家資格である法律咨询師を外国人で初めて取得されました。


高橋先生:なぜ中国にこれまでゲームに年齢制限規制がなかったかというと、結局いつも申し上げていることですが、中国は社会主義国家だから、ということなんですよね。社会主義国家は社会の安定とか社会に如何に不安定な要素がないか、を重要視します。すると、年齢制限を掛けなければならないほど一部の人たちに不安定な要素を与えるコンテンツは好まれないということになります。

中国をはじめとする社会主義国家では年齢制限が課されるコンテンツはそもそも存在してはいけないということになります。コンテンツというのはどんな年齢の人が見ても楽しめるモノである、誰が見ても社会不安が発生するものではないものである、ということが求められます。すると、なぜ中国では年齢制限がいままでなかったのか、という問題ではなく、年齢制限が課されるコンテンツはそもそも存在してはいけない、ということになります。

これはよく知られている話ですが、中国ではなぜ法的にはポルノが全面禁止なのか、という問題の解答にもつながっています。ではなぜ、いまさらながら中国が年齢制限コンテンツのシステムを導入しようかと考えているのか、という問題が次に発生します。

原因は2つあると考えられます。

1つは、社会主義理論を今の中国の政権がわかっていないのではないかという事
もう2つ目は最近よく言われている話ですが、中国経済の停滞に伴って年齢制限を入れながらも、いろんなコンテンツが中国国内に出回るようにして、中国の経済をよりまわそうという発想があるのかもしれません。そういう意味では習近平政権は毛沢東時代への回帰を目指しているとはよく言われていましたが、毛沢東時代の象徴である純粋な社会主義理論をもって、年齢制限を導入しないのか、あるいは純粋な社会主義理論を放棄して年齢制限コンテンツを中国でも導入するのか、非常に大きな分水嶺になると思われます。非常に小さなニュースかもしれませんが、非常によく注目すべきニュースといえるかもしれません。


高橋先生の意見をまとめると、以下のようになります。

  1. 今までは社会主義的な思想から年齢制限を課す必要のあるコンテンツを作るのは、共産党政府が一番懸念する社会を不安定にさせる要素があるとみられていた。
  2. 今まではレイティングシステムは積極的に検討されなかった。
  3. 現政権は経済的な要因で、レイティングを検討しているかもしれない。

高橋先生とこの話をしたときの第一声は「中国も進んだなぁ」でした。さて、この「草案」あくまでも「人民網とゲーム会社が考える年齢毎の適したゲームとはなにか」という枠組みで、決して日本の18禁ゲームのようなものを容認するものではないようです。

今回発表された草案はテーブル化されていますので、一つずつ見ていきましょう。まずはこちらのゲーム内に登場してはならない内容です。歴史について言及しているところが興味深いです。これが施行されたら日本の得意な歴史ものが全滅ですな…。年齢毎に適したゲームタイプについては、12歳未満は“麻雀”だめですね。

次に、“課金システム”、“SNS機能”、“PK(プレイヤーキラー)機能”、“広告”についてですが、先ず、早熟恋愛はだめ、更に課金についても、過度な課金を抑制する内容が盛り込まれていますね。性的な部分、PK、広告、歴史についての言及は中国っぽい感じです。今回紹介したものはあくまでも「草案」なので、ここからどんな変化を経て実際に施行されるのか気になります。ではこの草案がもしそのまま施行されたら、次の3つの状況が予測できます。

!ゲーム審査のスピードが速くなる!

ゲームの審査基準が明確になるので、より明確な基準の下、ゲーム会社もゲームを作りやすくなり、審査側の審査スピードやストレスが早くなるので、悪い事ではない。日本もCEROがあってそれに基づいてゲームデザインをしているので、今後海外のゲームも中国を狙いやすくなるかもしれません。

!経済が活性化する?

ゲームは2018年4月から出版番号の付与と審査システムが変わってから、なかなか出せなくなっています。以前はゲーム会社が納税番付の上位を占める時代もあり、中国の経済を不動産や映画産業と共にけん引していました。実際、不動産会社がゲームに手を出す事例もありますしね。なので、中国の経済をもしかしたら再びけん引する力になるかもしれません。

!他の産業にも波及する?

中国の映画産業も不明瞭なセンサーシップ制度の為に、苦しめられています。もしかしたらゲームのレイティングを皮切りに、テレビ、映画と様々なメディアに波及するかもしれません。

編集後記

さて、本日の動画はいかがだったでしょうか。中国政府がレイティングシステムを能動的に策定していくとは夢にも思っていませんでした。もしかしたらミミムがずっと懸念してきた、中国における「アニメは子供だけのモノ」という概念がレイティングを機に変わっていき、中国でも大人の鑑賞に堪えうるアニメが今後登場するかもしれません。規制が厳しいのは逆に新しい発想につながると思います。皆さんはどう思いますか?アニメで知る中国では皆さんのコメントをお待ちしております。動画にコメントするのがちょっと…という方はこちらのメールまでご連絡くださいね。チャンネル登録もお待ちしております。では本日の動画ここまです。

またね!

参考URL
http://society.people.com.cn/n1/2019/0626/c1008-31197349.html
https://gnn.gamer.com.tw/2/181952.html

記事:ミミム(北京MYC)

北京動卡動優文化傳媒有限公司有限会社(北京MYC)とは

2010年に設立されたアニメ・ゲーム専門の広告代理店の北京動卡動優文化傳媒有限公司有限会社(北京MYC)。中国のアニメ市場の消費力データを有し、アニメ・コミック・ゲーム(ACG)の分野で、中国市場を狙う企画から販売促進まで一連のサービスをワンストップで提供。2016年に日本支社(株)MYC Japanも設立。