『アニメで知る中国』対談!ヴァーチャルエコノミスト千莉が行動経済学で切る“中国コンテンツ2019”

『アニメで知る中国』へようこそ!ミミム(北京MYC)です。

中国の国産3Dアニメ「哪吒」が42億超えましたね。「哪吒(なだく)」の制作に協力した「北京十月文化」は2015年に「西遊記之大聖帰来」という、3Dアニメ映画を上映して10億元、約150億円の興行収入をたたき出しました。また、中国ゲームショーChina Joy2019で話題になったPS4ゲーム「原神」。こちらの制作元miHoYoは結構前から日本に進出していましたが、ついにハードゲーム機に進出した感じですね。ですが、この2つの作品に対する周りの反応は全く違う物でした。

そこで今回はゲストとして、ヴァーチャルエコノミストの千莉(せんり)さんに「行動経済学」の切り口から中国ファンの行動と中国に進出している日本企業が注意すべき点について分析してもらおうと思います。

アニメで知る中国第23回は「行動経済学で切る!中国コンテンツ2019」です。

第22回『アニメで知る中国』行動経済学で切る!中国コンテンツ2019

― ― ヴァーチャルエコノミストの千莉さんです!

千莉:こんにちは、バーチャルエコノミストの千莉です。本日は、よろしくお願いいたします。

― ― 千莉さん、自己紹介お願いします!

千莉:バーチャルYouTuberとして、YouTubeで経済に関わる動画を投稿しています。

― ― よろしくお願いします。早速ですが、千莉さん、今回は中国コンテンツ、先ほども簡単に紹介しました「大聖帰来」と「原神」について行動経済学を通して分析してもらいたいのですが、先ずは「大聖帰来」について改めて紹介しましょう

「大聖帰来」上映時に起きた「自来水」という動き

西遊記大聖帰来は北京十月文化が制作し2015年に上映された3Dアニメ映画。10億元の興行収入で、当時アニメ映画では異例の大ヒット。その背景には、上映最初の1週間は大してヒットしなかったが、その後鑑賞したファンが自主的に映画のファンアートを中国のSNS「微博」で投稿、宣伝し、興行収入増加につながった。これらのファンを「自来水」、所謂水道水と呼ばれており、ひねれば水が出る、ひいては、上映すれば勝手にファンアートやお金などの力を出すといういみが込められている「自虐的自称」。中国ではこういう「私は1枚の女の子」とか「私は独身の犬」といった、へりくだっているのか、皮肉っているのか判別しにくいネットミームが多数存在する。

― ― この「自来水」という行為は今まで中国の映画業界ではあまり見られなかった現象ですが、日本から来たアニメや漫画のファンの間ではよく見られます。日本でも、「けものフレンズ」や「バーチャルユーチューバー」を含め、よくある行為だと思うのですが、行動経済学的にはどのように分析したらよいでしょう?

千莉:ファンが湯水のようにお金を使って応援することは、行動経済学の「メンタルアカウンティング」で説明できますね。「メンタルアカウンティング」とは、簡単に言うと心の財布のことです。人間は誰しも食費、光熱費、娯楽費など心に複数の財布を持っています。ファンがお金を惜しまずに応援する理由は「投資」のアカウントからお金を出しているからと考えられます。

例を挙げると、バーチャルユーチューバーに5千円を躊躇無く投げ銭するファンでも、昼飯に1杯5千円のラーメンを食べることには抵抗があるでしょう。これは、投げ銭が「投資アカウント」、ラーメンは「食費アカウント」に分類されるからです。

ファンが自発的に宣伝する行為は、行動経済学でいう「社会規範」の行為であると言えるでしょう。「社会規範」とは助け合いや譲り合いなど、金銭が絡まない関係のことです。「社会規範」の場合、人々は、意識が向上しやりがいを感じることが分かっています。つまり、ファンは有償で宣伝させられる場合よりも、無償で宣伝するときのほうが熱意をもって動くのです。

FacebookやWikipediaはこのようなユーザーの自発的な行動を利用して規模を拡大させていきました。近年になってユーザー宣伝型のビジネスモデルが増えてきた理由はSNSの発展によるものが大きいそうです。

また、人間はテレビCMのように利益を得る対象から直接宣伝される場合は説得力が低く感じます。対して、アマゾンのレビューや食べログのように、利益と関係無い他者からの評価は信頼しやすい傾向にあります。

これらの理由から、もはや自社が大金をかけて宣伝するのは古いビジネスモデルであり、これからは「いかにファンにシェアされるか」がビジネスとして大切になっていくと思います。

― ― なるほど、「メンタルアカウンティング」と「社会規範」ですね。今まで現象の紹介はされても、日本人には難解だったので、これはかなりわかりやすいですね。「いかにユーザーにシェアされるか」という部分が重要になってくるということで、こういう自発的にシェアしていくファンには特別な呼称はないんですかね。

千莉:私の知る限りではありませんね。もしかしたら、中国から「自来水」や「水道水」などの単語が日本に輸入されるようになるのかもしれません。

― ― 輸入されたらおもしろいですね!次もファンの話になりますけど、日本でも有名な崩壊シリーズのアプリゲームを出しているmiHoYoがPS4で「原神」というオープンマップRPGを出すことが発表されました。中国のオリジナルゲームがPS4でリリースされた例としては北京「Roket Punch」の「ハードコア」というロボットゲームなどがありますが、パッケージでフルプライス作品としてはおそらく「原神」が初めてだと思います。しかし発表されたChina JoyではファンがPS4破壊し、ネットでマイナス評価されています。

miHoYoは「技術オタクが世界を救う」と、ファン目線でゲームを作っているイメージで、好感度が高かったはずなんですが…これは如何でしょう?

千莉:ファンがPS4を破壊した原因は、人間の報復本能によるものだと思います。人間は「不公正を嫌う」という性質を持ちます。不公正をした相手には自分が不利益を被ってでも懲罰を与えることがあります。人間の脳は、不公正な相手を攻撃することで快感を得る仕組みになっているそうです。不倫した芸能人を関係の無い人々が叩くのはこういう理由ですね。

話を「原神」に戻すと、PS4を破壊したファンは「原神」を「ゼルダの伝説」のパクりゲームと認定し、ソニーが認めたことに不公正を感じ、自ら不利益を被ってまで報復行為に出たのでしょう。

― ― なるほど、日本人にはなじみが薄いかもしれませんが、中国の方は特に「不公正」という言葉には過敏に反応する傾向がありますからね。日本でもこういうのっておこりえるんですかね?

「不公正を嫌う」性質は万国共通

千莉:「不公正を嫌う」性質は日本でも全世界でも共通ですね。例えば、東日本大震災の時、物資の不足につけ込んで過度な値上げを行った店は、震災後に地元の人から見向きされなくなり店を畳んだ例があるようです。これも不公正を罰する人間の性質であると言えるでしょう。

従来の経済学では需要が増えたゆえの値上げは正しい行為ですが、行動経済学では不公正に見える値上げは間違いとなります。消費者にとっては法律違反であるかどうかはどうでもよく、「公正に見えるかどうか」が大切なのです。

― ― 「原神」は法律違反かどうかではなく、「公正に見えなかった」から、ファンのあのような行為につながったのでしょうね。「大聖帰来」のファンが作品を支持する行為、そして「原神」がネットで批判された事象、こうして「行動経済学」でみると、なんか分かりやすい気がしますね。

そして最後にですね、いま日本のコンテンツホルダーやゲーム会社、例えばDeNA、バンダイナムコ、Greeが中国に進出しています。また、ANIPLEXやavexも中国に拠点を置き展開を図っているみたいでして、先ほどの「メンタルアカウンティング」、「不公正を嫌う」等を鑑み、日本のコンテンツ系企業はどのように「社会経済学」を応用して中国のマーケットを攻略すべきでしょうか?

千莉:「フレーミング効果」でコンテンツの価値を大きく見せるという戦略はどうでしょうか?提示方法によって受け取る印象が変わることを、行動経済学では「フレーミング効果」と呼びます。具体的に言えば、「権利を安売りしない」ということですね。人間は高いものは良い、安いものは悪いという無意識の偏見を持っています。特に「権利」など正確な価値を計るのが困難なものは、偏見を受けやすい傾向にあります。

私たちはラーメン1杯の値段は高いか安いか判断できますが、ダイヤモンドの値段なんて分かりませんよね。ある宝石店では、格安で宝石を売っても全く売れなかったのですが、あえて値上げを行ったところ飛ぶように売れたという例もあるそうです。

つまり、日本企業が中国へコンテンツを売り込む際に、安い方が喜ばれるだろうと権利を安く提示すると「その程度の価値しかいないコンテンツなのか」と、低く見られてしまう危険性があるというわけです。

― ― 逆に高すぎる、と感じられている部分もあるみたいですよ。

千莉:高い知名度と大きなファンを抱える作品に関してはブランドの維持を優先すべきだと思います。作品に対するファンの熱量などを考慮すると、適切な値段をつけるのは困難です。一見高そうに見えたとしても、作品が抱える「動くファン」の数を考慮すると、その値段は安いのかもしれません。

反対に、日本では売れ行きが奮わなかった作品の場合、権利の一部を無料にしてみるなど、権利の安売り戦略で一発逆転を狙うのもありなのではないでしょうか。なぜなら、人間は「無料」のモノを過大評価してしまう傾向があるからです。日本企業は、日本アニメというブランドに「無料」の効力を合わせて中国に売り込むのです。この戦略が上手く行けば、中国の巨大なマーケットは、日本人に見捨てられた作品たちの救世主となりうるのかもしれません。

― ― なるほど、確かにいま日中で人気を博しているアプリゲーム「ラングリッサーモバイル」も救世主となった作品かもしれませんねぇ。

ポイントは「権利を安売りしない」と「フレーミング効果」の2つ

千莉さんの話をまとめると、日本企業にとって行動経済学的には「権利を安売りしない」のと「フレーミング効果」で中国に切り込んでいくのがポイント、という事ですね。

千莉:まとめると、フレーミング効果でコンテンツの価値を大きく見せるという感じですね。そのためには、「権利を安売りしない」や「あえて一部を無料にしてみる」などの戦略が考えられます。

― ― しかし行動経済学という違う視点で中国に切り込むとまた面白いですね。ミミムはまた一つ賢くなったような気がします!

さて、本日ここまでで、タイムアップとなってしまいましたー。

千莉さん、本日はありがとうございました。今回のコラボ動画に関して、何か一言お願いしていいですか?

千莉:今回のコラボで、私も中国の詳しい事情を勉強させていただけました。貴重な機会を与えてくださり、ありがとうございます。

― ― 本日の動画、アニメで知る中国第23回「行動経済学で切る!中国コンテンツ2019」は、ナビゲーターミミムとバーチャルエコノミストの千莉でお送りいたしました!

では皆さん、また動画みてくださいね!

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次回もご期待ください。

ばいばい~

北京動卡動優文化傳媒有限公司有限会社(北京MYC)とは

2010年に設立されたアニメ・ゲーム専門の広告代理店の北京動卡動優文化傳媒有限公司有限会社(北京MYC)。中国のアニメ市場の消費力データを有し、アニメ・コミック・ゲーム(ACG)の分野で、中国市場を狙う企画から販売促進まで一連のサービスをワンストップで提供。2016年に日本支社(株)MYC Japanも設立。