吟硝子さん登場『アニメで知る中国』第34回「海外進出の落とし穴!あなたは翻訳を勘違いしてる?!」

ナビゲーターのミミムです。AIでなくなる仕事というのが近年話題になっていますが、その中でも「翻訳者」がAIによってとってかわられるかも?という話があります。

本日は、カナダ在住のガラス細工Vtuber吟硝子さんとコラボさせて頂いて、翻訳者の視点から、翻訳とは何か、そして今後のAI翻訳と、企業の海外進出について気を付ける事を考えてみたいと思います。

『アニメで知る中国』第34回「海外進出の落とし穴!あなたは翻訳を勘違いしてる?!」

では、さっそく登場して頂きましょう、ガラス細工Vtuber、吟硝子さんです

:こんにちは、吟です。よろしくお願いします。

では、吟硝子さん、簡単な自己紹介お願いできますか

:はい、ナイアガラの滝のほとりの工房でガラス細工や彫金、手織りなど細々と作ったり翻訳や通訳ふくむ語学系や音楽、教育、福祉系など、手広くいろいろお仕事しています。

ガラス細工は知っていましたが、彫金などもされているんですね!吟硝子さん、本日はよろしくお願いします。では、さっそくですが、本日のテーマ「AIと翻訳」についてお話伺ってみたいです。

まず最初にですが、ミミムは吟さんと同じように海外、私の場合は中国ですが、でお仕事しているので、翻訳は必須なスキルでもあり、翻訳通訳は国を跨いだ仕事をする上でなくてはならない業務なんですよね。おそらく今回この動画見ている視聴者の皆さんもそういうお仕事されている、或いは興味を持っている方が多いかもしれません。

翻訳に関するエピソード

やっぱり他国とのビジネスではお互いの第一言語でコミュニケーションしたほうが、何かと問題が少ないとおもうんですよね。でもイメージあんまり出来ないんと思うんで、まずはエピソード的なものを伺いたいと思います。

吟さんはナイアガラの滝のほとりのお仕事において翻訳という仕事をやってらっしゃるということで、海外での翻訳で何か印象的なエピソードとかありますか?

:そうですね、翻訳も通訳もけっこう長くやっています。いろいろ、まあ話せることも話せないこともたくさんありますね(笑)

話せないこと聞きたいですけど、今日は話せる事で(笑)

:例えばうちは親子留学から起業移民したパターンで、これは「移民家庭あるある」じゃないかと思いますが、子供の頃から親の通訳をやっていました。親がよく、ネガティブな意味合いでもポジティブな意味合いでも「日本では考えられない」「やっぱり日本とは違うね」と言うのを聞いて育ったこともあって、文化を踏まえて翻訳・通訳しないと字面の置き換えはできても内容が通じないというのは子供のころから痛感していました。

なるほど、翻訳のスキル、という以前に翻訳とは何か、という問題に直面したわけですね。時代もあるかもしれませんが、例えば学校に欠席の連絡ひとつ入れるのでも親はまず謝っていて、逆に教師になぜ謝るのか不思議がられたりしていましたね。

翻訳ってただの言葉のやり取りではなく、文化っていう生活全体のぶつかり合いになることも多いですから、本当にいろんなことが起こりますよね。

:ええ。あと昔楽器をやっていて、毎年音楽キャンプに参加していたんですが、それで毎年学校を一週間休む時に、最初の何年かは親がひどく恐縮して、先生は先生で「とても良い経験になるから是非行ってらっしゃい」と送り出してくれる。そのギャップを埋めるために親に先生がこう言ってたよ、と説明したり、先生に親が恐縮していたのはこれこれの理由で、と説明していたのが、言葉以上に「繋ぐ仕事」としての通訳を強く意識した原点かもしれません。

なるほど、中国語の話になりますが、なまじ日本語と似ている字や言葉があるので、一見コミュニケーション取れやすいように思いますが、実はかなり文化的な差異が大きいので、欧米の見た目からして違う言語に比べて、より溝を深く感じられる人は多いのではないか思います。まずは「日本とは違う」ってことを理解しないと、翻訳は大きなトラブルを引き起こす要因になってしまいそうですね。

:カナダ進出を検討している企業向けセミナーの通訳をした時に、「ここはカナダです。日本ではありません。あなたの想像する『外国』でもありません」と太字で書いてあったのと、資料の全ページ番号の横にも同じ文言があったのを見た時は、苦労したんだろうな…としみじみしてしまいました。そのセミナーでも内容の半分位は現地の文化や法律についてで、日本的な感覚で対応しないように、と繰り返し話されていました。

それは話してもよい範疇でしたか(笑)

:このセミナーについては外で喋っても良いと許可をもらった範囲でお話ししていますので、ご安心を。守秘義務のある内容をべらべら話すようなダメ通訳じゃないよ、わたし!(笑)

通訳、翻訳は言語スキルもそうですが、言語ができるから通訳・翻訳ができるわけじゃない、というお話ですよね。他人とコミュニケーションするには前提や文化などをある程度理解していないと、様々な誤解が生まれると思います。

本当にそうですよね!使う人がいて、その人の意図があってこその言葉ですから。でも、それだけ念押ししても質疑応答の際に私でも「おや?」と思うような質問が出たりして、まあ一度や二度のセミナーじゃ伝えきれないのかなあ、とも思いました。

企業向けセミナーの話が出てきましたけど、この様に、翻訳を必要とする双方の文化や考えをある程度理解していないと「伝わる通訳」というのは非常に難しい、というのは皆さんも吟さんのお話を聞いて理解して頂いたかと思います。

なので、そのような希少な翻訳者に外注したり、雇ったりする翻訳・通訳は金銭的にも時間的にも、進出企業としてはコストが非常にかさむものだと思います。

では次に本日のトピックであるAI翻訳について話を伺っていきましょう。

AIのできる事、出来ないこと

先ほどのお話で「通訳翻訳する以前に双方の文化を理解しないといけない」という話がありましたが、昨今のAI翻訳のレベルは思った以上に向上していますよね。

:AI翻訳というか機械翻訳は精度もとっても上がってきていますよね。わたしのチャンネルでも以前DeepLとGoogle翻訳に同じ文を翻訳させてみた動画を上げましたが、それこそ数年前の「Google翻訳・カッコ・わらい」みたいなところからは大幅に向上したのは肌で感じています。

ただ現役の翻訳屋としてはいろいろと思うところもあるわけで…うーん、難しいな(笑)

そうですね、私も社内共有レベルではDeepL使ったりします。

今後企業の海外進出においてコスト削減のために翻訳にAIを導入するのを考慮するところも出てくるかもしれないですけど、吟さんはどうお考えですか?

:えっと、90年代頭くらいにわたし、翻訳関係のとある座談会に出たことがあって、その時に司会者さんが「自動翻訳が発達したら翻訳という仕事はなくなると思いますか?」と質問されたことがあったんですね。当時既に自動翻訳ネタは翻訳者の間でも色々議論されていましたが、まだまだ実用的とは言えないレベルだったこともあって、みんなその瞬間「うわ、来たよ」みたいな空気になっちゃったんですね。

反射的に「医療器具が発達したら医者という仕事はなくなるでしょうか?」と質問に質問で返しちゃったんですけど。基本的にわたしのスタンスは当時から変わらないかな。

それは面白い返しですね。

:なんにでも当てはまると思うんですが、「便利なツール」と、「そのツールを使って成す仕事」は同一ではない、ってことですね。そこがちょっと、翻訳という仕事の内容をよく知らない人にはピンと来ないかもしれないですけど。

なるほど、大きな画用紙を上手く切るには定規は必要だけど、実際の裁断にはハサミと手が必要ってことですかね。カッターとハサミではなく、定規とハサミですね。

そうそう! ハサミを操る手が大事なんですよ!(笑)

:昔はそれこそちょっと長い文章になると支離滅裂になってしまっていたからまだまだ実用性はないという共通認識があったと思うんですけど、最近どんどん精度が上がってきて、それでもまだツールとしての性能が上がっているという話のはずなのに、いつの間にかツールではなく仕事の話になっているのは「ちょっと違うんだよなー」と思います。

それは確かに良く混同されるポイントかと思います。ツールと仕事は違うと。

:なまじ自然な文章になっているため誤訳に気づきにくくなってしまっているケースも散見されますよね。

まるほど、「なんとかとハサミは使い様」ってことなんですね。一長一短がある。

:自然な文章だから正しいとは限らないんですが、翻訳を必要とする層は翻訳された後の文章しか見ないのがふつうですから、違和感がなければ原文を確認しようともしないわけで、そこは分かりませんよね。

意味が全然違ってしまうことが考えられますね。

:体裁が整っているから大丈夫だろう、と安心してしまう落とし穴っていうのは今くらいがちょうど危ういところかもしれないなと感じたりします。もう機械翻訳で大丈夫だよね、人間は要らないよね、と思われてしまう怖さというか。

それはなかなか危険ですね。意味の取り違えは機械翻訳だけでなく、人間でもあり得ますが、声のトーンや表情という情報がない分、AIは翻訳する時ニュアンスを伝えられない、ということですかね。

私は翻訳するとき、前置きとか直接伝えると誤解される内容については、独自判断で省く事があります。

何でもかんでも正直に伝えることがコミュニケーションじゃないと思うんですよね。

特に我々代理店的存在は円滑なコミュニケーションを求められるわけで。

ああ、とてもよく分かります! ロシア語通訳の米原万里さんの著書にも、意図的に翻訳を省いたり発言を部分的に変えたりしたエピソードが紹介されていて、現場の判断でそういう本来なら「ご法度」な所に踏み込む必要が出てくる問題ってありますよね。あえての誤訳というか、そこがまさにわたしたちの「仕事」の部分で、企業に翻訳や通訳が呼ばれる理由って、100%精確に言葉を置き換えることが目的ではなくて、最終的には契約を締結させるとか商品を売るとかいう話ですし、これが福祉系だと、言葉の正確性より困っている人の気持ちに寄り添うことの方が重要視される場合だってありますから。ただ、それが行き過ぎると「overtranslation」、いわゆる過剰な翻訳や誤訳になってしまうので、匙加減が難しいですが。

そういう意味では、吟さんのおっしゃるAI翻訳の「原文とは違うニュアンスになることがある」という部分に現時点におけるAI翻訳の限界があるかもしれません。

AIのできる事、出来ないこと

AI翻訳のポイントとしては、現時点では「便利なツール」であって翻訳通訳時に取得する情報量が少ないがゆえに「ニュアンスが変わってしまうことがある」ということがわかりました。

吟さんはAI翻訳に関するコミュニケーションコスト・費用コストのエピソードとかありますか?

:依頼側はコスト削減のつもりかもしれないけど、機械翻訳を通した文章を「校正してください」って投げられて、翻訳じゃなくて添削・校正だから安くていいよね?って買い叩かれて翻訳者がますます機械翻訳嫌いになる、という悪循環が生まれたりしてます。

それはまずい事ですね。

:下手したらそっちの方がコストかかってしまうこともある。そしてその修正にかかるコストはなかなか理解されない(笑)。

企業側のコストもそうですけど、翻訳屋としても機械翻訳という素晴らしい時短ツールを使いこなすのはこれからの生き残りの絶対条件だと思います。翻訳者が使う、いわゆる翻訳支援ソフトというツールもそうなんですけど、機械に任せられる作業は任せて、機械にできないところで人間ならではの力を発揮して、相互に利用しあって伸ばしていくべきだと思います。

機械翻訳で済ませれるものと機械翻訳より人に翻訳させたほうが良いモノがあるという事ですね。

:誤解しないでほしいのは、わたしは翻訳や通訳をお仕事としてやってますけど、機械翻訳はわたしたちの仕事を奪う敵ではないし、機械翻訳の開発をされている方々には尊敬と感謝しかないです。便利に使えば本当に便利なのは間違いないですから。

まとめ

今回吟さんとのお話で「翻訳する以前に双方の文化を理解しないといけない」ということ、現時点でAI機械翻訳は、「便利なツール」で「ニュアンスが変わってしまうことがある」という事を学ぶことができました。という事は企業はAIと人の翻訳を使い分けることで、より効率よく海外進出出来るのではないかという事ですね。

:そうですね。ただ、それには翻訳というお仕事を知らない層への教育も重要だと思っていて、さっきも言った「誤訳なく翻訳されやすい文章の書き方」とか「逐次翻訳しやすい間の取り方」とか、そういう「翻訳されること」を意識した発信、というものを考えてもらうことも大切だと思っています。

そうすれば必然と「母国語として読まれたり聞かれたりしても誤解の少ない表現」を意識することになると思います。

吟硝子さん、今日はありがとうございました。

大変勉強になりました。

:いえ、わたしも日ごろの鬱屈を吐き出せて楽しかったです(笑)。

今日の動画ここまでになります

アニメで知る中国第34回硝子職人系Vtuber(こちらは調整していただければ)吟硝子とナビゲーターミミムがお送りしました。

またお会いしましょう

:ありがとうございました。

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また見てくださいね!

北京動卡動優文化傳媒有限公司有限会社(北京MYC)とは

2010年に設立されたアニメ・ゲーム専門の広告代理店の北京動卡動優文化傳媒有限公司有限会社(北京MYC)。中国のアニメ市場の消費力データを有し、アニメ・コミック・ゲーム(ACG)の分野で、中国市場を狙う企画から販売促進まで一連のサービスをワンストップで提供。2016年に日本支社(株)MYC Japanも設立。