2018年1月より放送が開始し、アニメファンの間で大ヒット。放送から一年が経つ今もなお、バラエティに富んだ商品の登場、そしてTVアニメ続編、劇場アニメ化と華々しい人気ぶりを見せる アニメ『ゆるキャン△』(原作・あfろ 芳文社「まんがタイムきらら フォワード」連載)。
その温かな世界観と、妥協の見えないクオリティの高さが多くのファンの心を動かした結果、アニメファンの“あるファン層”を惹きつけた。
『聖地巡礼ファン』だ。
アニメの聖地(=モデル地)には、TVアニメ放送から一周年の現在も、国籍を問わず、多くのアニメファンの姿がある。
そんな『アニメの聖地巡礼』の裏では、『アニメがヒットするかしないか分からない。それでも、やることに意味がある。』と信じ、アニメ『ゆるキャン△』の放送が始まる前から、アニメファンを出迎える土台作りのキーマンとして動いてきた職員の姿があった。
今回は、公益社団法人やまなし観光推進機構の武川 清志朗 氏に直撃インタビュー。
聖地巡礼の『土台作り』から、インターネットメディアで取り上げられた『ファンのマナー問題』まで、詳しく話を伺った。
『ゆるキャン△』聖地巡礼支える地元職員の想い―やまなし観光推進機構 武川さん インタビュー
アニメの“モデル地紹介サイト”が話題に
―本日は宜しくお願いします。まずは、武川さんがお勤めの、『やまなし観光推進機構』さんのご紹介を頂けますか?
やまなし観光推進機構は、県や市町村、観光関係団体と連携して、国内外からの観光客の増加と、山梨県のPRを目的とする組織です。『日本版DMO※1』として、地域の行政、企業、諸団体と連携しながら、山梨県のPRやフィルムコミッション※2 としての活動を行っています。
―『やまなし観光推進機構』そして『ゆるキャン△』といえば、やはり【モデル地紹介】のサイトですよね。こちらを作られたのが、やまなし観光推進機構さん、ということで。
【アニメ「ゆるキャン△」で登場した 山梨県内のモデル地をご紹介!】のサイトは、SNSなどを通じてたくさんの反応を頂けたことがすごく嬉しかったです。山梨県のプロモーションに10年近く関わっている職員も、アニメファンの方々の想像以上の反応を見て、『こんなに反応があったことは無いね!』と喜んでいました。
※1『日本版DMO』
…観光地経営の視点に立ち、観光地域づくりの舵取り役として、多様な関係者と協働しながら、明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略を策定するとともに、戦略を着実に実施するための調整機能を備えた法人のこと。
※2『フィルムコミッション(FC)』
…映画等の撮影場所誘致や撮影支援をする機関。
『ゆるキャン△』聖地巡礼の受け皿作り『やらなければ始まらないし、やることに意味がある。』
―TVアニメ『ゆるキャン△』の放送が開始してから、丸一年が経ちました。『ゆるキャン△』のことを考える時間の多い一年だったかと思いますが、この一年を振り返ってみていかがですか?
「もう一年か……。」という感じですね。イベントをやったり、ツアーをやったり、地域の商品開発をやったり、その他にも色々な企画をやったり……いろんなことが目まぐるしく動いていて、色んなことをやっていたら、「もう冬キャンの時期か…。」と(笑)
―そうですよね。“イベントをやったり、ツアーをやったり、”様々な催しがあるようですね。こういった取り組みは、『ゆるキャン△』の製作さんから声がかかった段階から計画していたのでしょうか。
いえ、当時は、フィルムコミッションの業務として、モデル地の紹介だけをさせていただいていました。ただ、作中では、各務原なでしこ達の通う学校のモデルなどがある、山梨県の身延町を中心とした『峡南エリア』は、冬の時期は観光的に非常に弱い地域でしたので、これを機に町おこしが出来れば良いな、と思っていました。
山梨県がメインとなったアニメはほとんど無かったので、『新しい観光の切り口』として、何か出来ることはないかな、というところから、商品開発だったり、聖地巡礼のサイトを作ったりといったものを最初に始め、更にそこから、関係各所に理解を深めていただく活動をはじめました。
―アニメファンを受け入れる土台作りの第一の壁は『地域の方々の理解を深める』ですよね。ここに苦戦し、折れていく地域も多いようですが、『ゆるキャン△』ではどうだったのでしょうか。
やはり最初はなかなか理解が得られませんでしたね。パネル展を開催したり、地元企業へコラボグッズの打診をしたりと試したのですが、まさに『箸にも棒にもかからない』ような状態でした。
そこで、『地域の受け皿作り』として、『ゆるキャン△』に関連したお土産や食を充実させよう、と思いました。アニメファンの方々に、来て、買って、喜んでいただける、思い出に残るものを作る事によって、ファンの方々の思い出に残していただけますし、観光面での収益がプラスになり、商業的な刺激が地域に与えられることで、地域の方々の、『ゆるキャン△』という作品への意識を高めよう、といった流れになりました。
―アニメというジャンルは、割と偏見の目を向けられがちですよね。『ゆるキャン△』への意識が高まった後の地域の方々の反応はどういった感じだったのでしょうか。
すごく良い反応でしたね。『ゆるキャン△』って、子どもに見せたくないような過激な描写もなければ、マウントを取るようなキャラクターも登場しないですよね。むしろ、『いろんな子がいるけど、お互いを尊重して、みんなで仲良くキャンプしようね。』といった、とてもピースフルな作品で。『ゆるキャン△』がこういった温かい作品だったからこそ、私たちも、県や企業さんと話をするのがすごく楽でしたね。改めて『ゆるキャン△』に助けられたな、と思います。
―武川さんは様々な取り組みをされてきたと思いますが、そうした取り組みは、まさにTVアニメの放送と同時進行ですよね。今でこそ2018年の人気作として有名になった『ゆるキャン△』ですが、「アニメがヒットしないかもしれない。」「聖地巡礼の土台作りがコケてしまうかもしれない。」といった不安はありませんでしたか?
『ゆるキャン△』のアニメ化は、ヒットするか分からない状態から始まっていると思うんですよね。もちろんどの作品もそうだと思いますが、『ゆるキャン△』は、京極義昭監督も初監督、制作サイドも「地域モノ」の経験があまりなく、支援する私たちもアニメ作品支援の経験がない。成功できるかできないか、全てが分からないという中で始めたプロジェクトだと思っています。ただ、支援する側としては聖地巡礼の受け皿作りも同じく、ヒットするかは分からないけれど、やらなければ始まらないし、やることに意味がある、と思っていました。
ただ、今振り返ってみると、やはり、『ゆるキャン△』原作者・あfろ先生のしっかりとした原作があったからこそ成功したものだと改めて思います。
―『やらなければ始まらないし、やることに意味がある。』もしこれから“聖地”、もしくはいま聖地としての準備期間にある地域があれば、是非この気持ちで頑張っていただきたいですね。
―武川さんや地域の方々の想いが実って、今では多くのアニメファンが聖地巡礼を楽しんでいます。海外からの方々も大勢いらっしゃるらしいですね。
そうなんです。これまでは、富士山までは来てくれていたんですよ。でも、残念ながら他の山梨県内部地域まではなかなか来ていただけて無かったんです。ただ、各所においたアニメ『ゆるキャン△』の交流ノートを見てみると、海外のお客さんのメッセージもすごく多くて感動しました。海外の方々とアウトドアは親和性がすごく良くて、特に欧米の方々にはキャンプはよく刺さるイメージですので、『ゆるキャン△』を通じて、アウトドアだったり、自然観光だったりを目的として山梨県に来ていただけるようになった、というのは非常に嬉しいです。
メディアがファンのマナー問題指摘も……。
―確かにそうですね。聖地巡礼が活発になり、人が増えるとやはり気になるのが『マナー』の問題ですよね。2018年には、一部メディアで「ファンのマナーが悪い」と指摘されたことがあったようですが……。
『ゆるキャン△』ファンの方の数自体が非常に多いので、もしかしたら中にはマナーやルールをご理解いただけていない方がいらっしゃるかもしれませんが、イベントなどではマナーの良い方がほとんどですね。私たちがイベント運営に慣れていないところもあり、行列の中お待ちいただいた時もありましたが、「大変ですね」とか「ありがとうございます」と温かい声をかけていただき、とても嬉しかったです。『アニメファン』というと作品によってファン層も変わると思いますが、少なくとも私がお話しした『ゆるキャン△』ファンの方々は、マナーの良い方がほとんどかな、といった印象です。ネットで言われているようなマナーを知らない人たちはいませんでしたね(笑)
―そうなんですね(笑) アニメ自体も、キャンプマナーのカットが毎話流れるなど、とても配慮されている印象ですね。
『ゆるキャン△』にはモデルとなった施設や町、キャンプ地が登場していますが、キャンプ場という場所は、利用するにあたりルールを厳守することや、ご利用されているお客様への配慮が大切です。またモデル地では実際に人が生活して、地域の方のご迷惑になることや、もし何か問題が起きてしまっては尾を引きかねない、ということは当初から考えていました。まずは地元の方々に説明をしながら、製作側ともにも、マナーについては色々とお話させていただきました。
『ゆるキャン△』と『聖地』の これから
―2018年は、『ゆるキャン△』の地域への理解を深め、ファンに聖地で楽しんでもらう受け皿づくりに尽力されたかと思いますが、武川さんが次に目指すことはどういった事でしょうか。
まずは『教育への活用』ですね。例えば、富士山や四尾連湖の美しい風景だって、地元の方々人が管理して守っているからこそ成り立っているものじゃないですか。こういった、誰かが守っている自然を、自分も大切にして、守っていこう、といった意識を広めて行きたいな、と。また、『ゆるキャン△』は親子でも楽しんでいただけているので、アウトドアの経験は子供たちの成長にも役立つのでは?と考えています。
次が『防災』。実は、震災など大きな自然災害を経験された方のお話を伺うと発生から支援が来るまでの三日間、キャンプの知識が非常に役に立ったようです。山梨県は、日本で三番目にキャンプ地が多いところでもありますので、アウトドア・キャンプへの興味を『教育』『防災』に結び付けていきたいな、と思っています。
―2019年も『ゆるキャン△』が楽しみですね。これからTVアニメ続編……劇場アニメとまだまだ広がりを見せていく『ゆるキャン△』。武川さんから、ファンの方へ一言メッセージを頂戴できますでしょうか。
『ゆるキャン△』をきっかけに多くファンの方々や地域の方と出会い、交流が生まれ、これまでなかった新しい挑戦が生まれました。こうした刺激が地域を人を成長させるのだと思います。私たちも『ゆるキャン△』ファンとして、皆さんと一緒に作品を楽しみながら応援していきたいと考えています。
なでしこやリンの暮らすこの山梨は自然豊かで静かな時間の流れる場所です。これからもモデル地を訪れていただく際は、作品の空気を感じながら地域を大切に想っていただけると幸いです。これからも応援よろしくお願いします!
(文・ふくもと)
関連サイト
「アニメ『ゆるキャン△』で登場した 山梨県内のモデル地をご紹介!」
https://www.yamanashi-kankou.jp/special/sp_yurucamp/