昨年末、『旅行青蛙(旅かえる)』の人気が出る前、私の周りでは『恋と制作人』が人気でした。
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その時はみなまだ蛙を育ててはいず、『恋と制作人』の主役たち――アイドルの周棋洛、覇道総裁の李翻言、インテリ教授・許墨、イケメン特殊警察・白起に夢中でした。プレイヤーは落ちぶれた映画テレビ制作会社のボスとしてゲームに参加し、破産寸前の会社を救うため4人の男性の間を奔走します。
『恋と制作人』は女性プレイヤーたちに“夢幻の彼氏”を提供しています。4人のそれぞれキャラクターの違う主役たちは、女性ファンに進んで出資させ(ゲームするにはお金がかかる為)、毎日カードを切らせて任務を遂行します。ある意味、“キャラ設定”が完備されていればいるほど、プレイヤーはハマりやすいと言えます。
最近、許墨が『瘋癩与文明(和名:狂気と歴史)』という本を採り上げ、この本を扱っているネットショップではファンの女子たちによって売り切れとなり、「主人公の歩調に遅れないように、この本を読みます!」とみな一様のレビューでした。でも、女子ファンのみなさん、急いでください。読書家の許墨についていくには、一枚のブックリストがあなたたちを待っていますよ。
『狂気と歴史』/フーコー
脳科学教授である許墨に、ヒロインが「何を読んでるの?」と尋ねた時、許墨は「フーコーの『狂気と歴史』」と答えます。許墨の専門分野ではありませんが、大きな範囲での社会科学のジャンル内であり、フーコーの博士論文で1961年に出版されたものです。
20世紀で最も挑戦性と反逆性を持った思想家の一人として、フーコーは無名ではありませんが、彼の作品には多くの人が怖気づくのではないでしょうか。自分も本当に読み終えた、とは言えません。
フーコー自身、要約するのが難しい人物で、文学歴史哲学政治がいっしょくたになっています。
『狂気と歴史』『監獄の誕生』『性の歴史』…社会科学の基礎が無くても、すべて理解できるとは言い難い。
女子ファンのみなさん、もし本当に興味があるならば、李銀河の『フーコーと性』や、ガリー・ガッティングの『フーコー』を読むのも悪くないですよ。本人の作品から入るより、他の人の解読の方が入りやすいかも。
『雪原と星空の間で』/華淑敏
この本のタイトルは許墨のモーメンツに登場しました。“雪原と星空の間で、きみは唯一の色だ”と。
見てください、学術に携わる人が愛のささやきをしたらこんな風になる、どうですか?
しかし、このフレーズが実は華淑敏の散文集のタイトルとわかると、これはいったい何の伏線なのかと、女性ファンたちはただただゲーム会社の許墨担当グループに頭を下げました。それはまず、華淑敏本人の心理学的背景があります。彼女はこれまで似たような背景の小説を世に出しており、その中には『女心理師』という心理療法師という職業を描いた作品もありました。そして次に、作者の散文集の中のいくつかの名句が偶然にも許墨の琴線に触れたのだと考えられます。“共に深淵へ落ちるか、力づくでのし上がるか”。聞くところによれば、許墨は後に感情がブラックに変化するとか。
『ナイチンゲールとバラ』が登場するのは、あるヒロインが許墨に本を読んでと求めるシチュエーションにおいてです。許墨は『ナイチンゲールとバラ』を選びますが、ヒロインは『星の王子様』がいいとねだります。『ナイチンゲールとバラ』の物語の内容を知っている人なら、許墨は多くの苦しみの感情を持っていると推量できるでしょう。ワイルドのラブストーリーの主人公はおしなべて献身的で、『面紗』にあるように“私はあなたが愚かで軽佻で頭が悪いことを知っている、でも私はあなたを愛している”といった人物が多いです。
『星の王子様』は一種の“互文”で、比較的あたたかな基調で描かれています。私が初めて『星の王子様』に出会ったのは恋愛小説の中でした。それは亦舒の小説で、亦舒はコラムでも自身の娘に『星の王子様』の絵本を買ったことがあると述べています。1998年の香港ドラマ『妙手仁心』では、蔡少芬が手術で意識不明の植物状態となり、呉啓華が彼女の傍らで何度も何度も『星の王子様』を読んで聞かせるというシーンがあります。蔡康永もこの童話を高く評価していて、自分は『星の王子様』の主人公だと自認し、ついでに自撮りAppにも“B612”(星の王子様の住む惑星)と名付けています。
『鏡の国のアリス』/ルイス・キャロル
許墨のブックリストの童話には、この本や『不思議の国のアリス』も含まれています。
作者は1865年に『不思議の国のアリス』を出版後、1871年に『鏡の国のアリス』を発表しました。第一部と比べ、第二部はとても温かで、アリスの協力によって帽子屋は家族を見つけることが出来ました。また、赤の女王が悪に堕ちたのは、白の女王が小さい頃についたウソが原因で、最終的には白の女王が謝り、二人は和解するのです。
アリスもまた、心理学的隠喩を持つ童話のひとつです。赤の女王がアリスに言った言葉「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」は、進化の理論における“赤の女王仮説”としても知られています。捕食者や競争者に立ち向かうには進化し続けなくてはならず、それは捕食者も同じです。
“赤の女王”は『バイオハザード』にも登場しています。多くの童話は様々な角度から解析することができます。私が読んだ『The witch must die:the hidden meaning of fairy tales』では、なぜ童話には魔女が出てくるのか、その設定から当時の社会歴史の関係を分析しています。子供のころ読んだ童話を今思い返してみると、ほんとは恐ろしいってことありますね。
『海辺の墓地』/ポール・ヴァレリー
フランス語から中国語の世界へ、計三つの翻訳がされた “風たちぬ、いざ生きめやも”(「縦有疾風起,人生不言棄」「風起,唯有努力生存」「起風了,好好活下去」※中国語圏でそれぞれ訳が違った)
多くの人が『海辺の墓地』を知ったのは、宮崎駿作品を通してでしょう。2013年のアニメ映画『風たちぬ』では、まさにこの詩が用いられています。
ヴァレリーはフランスの詩人で、早くにして名を馳せました。しかし“純粋と無知の知”を追求するあまり、詩歌と愛を捨て、公務員の職に就きフランス国防部や通信社での勤務経験もあります。
『海辺の墓地』は彼の晩年の作品で、人生を振り返り、生と死や過去と未来の関係についての考えも描かれています。
この記事について北京MYCからは以下のような意見があった。
この記事では、許墨の例が取り上げられていたが、ゲームの中の許墨の台詞は非常に味わい深く、一般のゲームキャラクターの口語表現とも違い、また強引に古典の名言を引用するわけでもない。さりげない古典引用と、許墨の“若き教授”という身分とが相まって、キャラクターにより一層豊かさと真実味を与えている。
“雪原と星空の間で、きみは唯一の色だ”(華淑敏『雪原と星空の間』より)などの名文句は、キャラクターの命運とも共鳴して、ゲームプレイヤーにより強烈な情感を醸し出させている。これらのわずかな言葉やキャラクターの好む書籍・映画を通して、彼をもっと知りたいという想いを禁じ得ない。
レポーター紹介!
2010年に設立されたアニメ・ゲーム専門の広告代理店の北京動卡動優文化傳媒有限公司有限会社(北京MYC)。中国のアニメ市場の消費力データを有し、アニメ・コミック・ゲーム(ACG)の分野で、中国市場を狙う企画から販売促進まで一連のサービスをワンストップで提供。2016年に日本支社(株)MYC Japanも設立。