『動漫知中国〜アニメで知る中国』第4回目「中国ゲームセンサーシップの歴史」について

皆さん、こんにちは、ミミムです。『動漫で知る中国』 略してデルちゅう へようこそ。1回目から、中国の最大手ゲーム会社のテンセント(騰訊)を中心に、中国のゲーム企業の苦難の2018年等を動画でお伝えしてきましたが、第4回からはでテキストとしても残していきたいと思います。

第6回中国ゲーム審査史[動漫知中国]

「中国ゲームセンサーシップの歴史」

中国のゲームは文化部、広電総局の審査を受けないとリリース出来ないのですが、その審査がストップしてしまったことは何度もお話ししました。審査がストップしているのは、文化部と広電総局の縄張り争いだ、というのが私個人的な見解です。12月8日に発表された「網絡遊戯道徳委員会」が設立されて、ゲームの審査を再開したようなのですが、これも私の見解を裏付けているように思います。では、まず、いつから中国のネットゲームは審査が必要になったのでしょうか?今回のテーマは「中国ゲーム検閲史」です。

出版物としてカウントされる中国のゲーム

中国ではゲームは出版物としてカウントされているので、まずは中国の出版物の立ち位置、そしてゲームが出版物として審査を受けるようになった経緯と現状を法律面から確認したいと思います。今回は法律の専門家に来て頂いております。中国法の専門家である高橋孝治(たかはしこうじ)先生です。中国の法律系国家資格である法律咨询師を外国人で初めて取得されました。

本日はよろしくお願いします。

高橋:こんにちは、高橋孝治と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

さて、高橋先生、まずは出版物について知りたいです。

高橋:現行の出版管理条例の題2条第3項には、出版物とは、という定義規定があり、この中で出版物には音声・映像作品、電子出版を含むということになっています。なので、CDやDVDなどは明確に出版物に該当するでしょう。

出版物に関する法律は中華人民共和国としてはいつからあるのでしょうか?

高橋:直接出版物に関する規制が行われたのは、1997年1月2日公布、同年2月1日施行の出版管理条例ですね。私の想像の域を出ませんが、改革開放政策や国有企業改革で、民間の出版社が増えていくことに対する対策だったのではないでしょうか。1997年とはそういう年です。

では、中国には1997年より前には出版規制はなかった、ということでしょうか?

高橋:直接の出版規制はありませんでしたが、中国の場合、そのような単純な構造ではありません。まず重要になってくるのが中国の権利論の構造です。日本などでは、普通「人権」を考える場合には、基本的に何をやっても自由、ただしこのような場合には自由は制限されるよ、といういわばブラックリスト形式の権利論を取ります。ところが、中国をはじめとする社会主義国家の場合、憲法に規定がなければそれを行う自由はない、というホワイトリスト的な権利論を取ります。この構造で行くと、憲法に出版の権利が書かれていなければ出版の自由はないことになります。

では、中国では憲法にそもそも出版の自由が書かれていないと?

高橋:そこも単純なものではありません。中華人民共和国最初の憲法は1954年に制定されましたが、この第87条には出版の自由が規定されています。しかし、1954年の憲法の前文第5段落には、「帝国主義に反対し、人民の敵との戦いを継続し団結しなければならない」とあり、1982年に制定された現行中国憲法前文第7段落には「中国共産党の指導」という言葉があります。

それはどういう意味です?

高橋:出版の自由を謳いながら、『人民の敵との戦い』や「共産党の指導に従う義務」も同時に規定しており、総合すると、出版の自由はあるけれども、それは共産党の了承する範囲内での自由という形に縮小されることになります。

はぁー。そういうふうに解釈するんですか。ちなみに人民の敵ってなんか映画のタイトルみたいですね。

高橋:日本語では誤解されることが多いのですが、中国などの社会主義国家で「人民」という場合、それは単なる「人々」という意味ではないんですね。「共産党の指導をありがたく頂戴する人々」、つまり「共産党に従う人」を意味するのです。そして、「共産党に逆らう人が『人民の敵』」ということになります。

実は、出版管理条例には国家がどのように出版を規制するというような規定はありません。このような出版をしたら、出版社の営業免許を取り消すという規定が主です。つまり、中国では出版数も多く、全てを国家がチェックすることはしていないのです。むしろ、各出版社が独自にチェックを行い、出版社の営業免許取消をちらつかせて、各出版社が中国政府に忖度して中国政府や共産党に都合の悪い出版物を事前にもみ消させるような構造になっています。

では本題のゲームが出版物としてみられ、管理されるようになったのはいつからなのでしょうか?

高橋:ゲームも先ほど申しました出版管理条例の対象となっていると考えられるので、条文の有無で言えば1997年ということになるかと思います。ただ、中国では長らく海賊版がゲーム市場をまかなっていたので、実際には番号をとっていない海賊版が多かったはずです。ただ中国政府は2014年にゲームの番号や審査を強化する通知を出し、2016年にはゲームがネット出版物として明確に位置づけられる通知が出ました。

アプリゲームの審査が厳格化へ向かう中国

《国家新闻出版广电总局贯彻落实国务院全面督查整改落实进展情况》というものですね?国家新聞出版広電総局(以下、広電局)という機関が出てきますが、こちらが、中国の出版物の審査や許諾、出版号を扱ってきた機関で、広電局の主な職責は「テレビ、インターネット番組に関する法律法規の制定」となります。

そして2016年6月、広電局から「アプリゲーム出版服務管理に関する通知(关于移动游戏出版服务管理的通知)」が発表されます。今まであまり審査が厳しくなかったアプリゲームの審査が厳格化します。

参考(http://news.iresearch.cn/content/2016/07/262518.shtml

「審査許諾されてないアプリゲームはネットで出版運営してはならない」というのが主な内容ですが、高橋先生のご意見を伺いたいです。

高橋:これだけアプリゲームが発達しているのだから、アプリゲームに規制がかかるのも当然ですが、外国サーバーからダウンロードしたものはどうなるのかが気になります。中国国内にアプリを販売している会社がない以上、規制しきれません。考えられるのは、例えば中国ではLINEが使えませんが、今後中国の審査許諾を取っていないアプリはLINEと同じように中国ではそもそも使えなくするという可能性が考えられます。

なるほど、だとするとSTEAMとパーフェクトワールドの関係がそれの答えかもしれませんね。2018年にSTEAMがパーフェクトワールドと提携しましたけど、中国国内ネットからシャットダウンされるリスクを減らすためだと、私は推測しています。

オンラインアプリゲームをネット上でリリースするための絶対条件まとめ

さて、ここで一度アプリゲームを出版するには何が必要なのか、そして審査登録から審査、出版号取得までの流れをゲーム制作会社視点でかなり簡単にまとめてみました。

(参考:http://www.qdaily.com/articles/58903.html?source=feed)

オンラインアプリゲームをネット上でリリースするためには

1. 網絡出版服務許可証(広電局)
2. 網絡文化経営許可証(文化部)
3. 増値電信業務経営許可証(工業と信息化部)

が必要になります。

2010年に発布された「網絡遊戯管理暫行管理弁法」では、文化部はインターネットゲームの主管部門で、文化部の統一管理の下、広電局が出版前のゲーム出版物に対する前置審査を行い、許可された物に対して文化部は再度審査せず、ネットリリースを許可する。となっていますがゲーム会社が「広電局」に審査に持ち込むには、上記の3つの証書が必要です。取得には1000万元以上の資本金とかかなり厳しい制約があるので多くのゲーム会社は持っていません。ということで、ゲーム会社が網絡出版服務許可証(文化部発行)を所持していない場合以下の通りになります。

  1. 網絡出版服務許可証を持つ出版社に持ち込み審査を行う
  2. 出版社が広電局に持ち込み審査を受け、許諾を受けて出版号を得る
  3. 制作会社が出版号とゲームをもって網絡文化経営許可証(文化部)を持つ会社に持ち込む
  4. ゲームリリース30日前に文化部に広電局の出版号を提出する。
  5. ゲームリリース

ちなみに国産では文化部は再審しませんが、海外発のゲームとなると文化部での再審査があります。これは中国でゲーム出すのってめちゃくちゃ大変ですよね?

高橋:本の出版と違い、ゲームは審査に厳しいと思います。また、やはり広電局と他の政府機関の重層構造も原因の一つと言えるでしょう。