『動漫知中国〜アニメで知る中国』第4回目「中国ゲームセンサーシップの歴史」について

ここまでの話をまとめると、中国での出版物とは、

  1. 出版の自由は憲法に記載がある
  2. 自由とされていても共産党の了承する範囲内での自由
  3. ゲームも出版物の一つとしてカウントされているということ。

そして先ほどのゲームリリースの流れを見ると、ゲームのリリースには

  1. 高橋先生がおっしゃったように審査出版社の忖度がある
  2. 更に広電局などの煩雑な手続きと厳しいチェックがある
  3. その後やっと文化部でネット配信許諾を得る

中国でゲームを出版するにあたり、自主的な検閲と忖度がなされるようなシステムが入っており、さらに出版号が付与されるようになった経緯と現状を分かってもらえたかと思います。

では次の話題に移りましょう。ゲームリリースにおいて、もう一つの部門「文化部」が関係していましたね。広電局と文化部は両方とも中国の政府機関ですが、ゲームに関してはいろいろ揉めているようです。

10年ほど前、世界でも大ヒットした「World of Warcraft」を中国ネットイース社の子会社「網之易」が他社から中国での運営権を取得し、中国で運営を開始したのですが、この時、広電局が突然「WoW」の審査を止めました。これは網之易が審査完了していない状態で課金や新ユーザーの取り込みをした為、だと言われています。

しかしそこに突然同じ国の政府機関が噛付いたのです。それが「文化部」です。文化部の市場司網絡文化処が、広電局がWoWの審査を中止したことに対して、越権行為であり、文化部こそがネットゲーム市場を監督する権利があると談話を発表しました。

中国の文化部は建国当時からある古い部署で、主に文化に関する業務を行い、1988年に他の部門と統合されて、今の文化部になったのですが、高橋先生、文化部の出版物に関する過去、そして現在の業務について簡単に教えてください。

高橋:文化部は中華人民共和国成立すぐに中央人民政府文化部としてできた行政機関で、出版管理や文化財の管理などを行っていました。現在は、芸術政策の決定や文化センターや図書館の建設の決定、文芸作品のインターネットでの公表に関する管理、アニメ、ゲーム産業の発展計画の決定などを行っています。

なるほど、文化部はネットリリース許可だけでなく、ゲームの管理も行っていたのですね。このWoWの審査に関して、文化部が広電局を越権行為だと問うたことについて、先生はどう分析されますか?

高橋:結局、利権問題だと思います。やはり中国にとってゲームが新しいメディアであるので、どこが管轄するのかが未確定で、広電局と文化部がどちらも管理者になりたいという争いが可視化した事件と言えるでしょうね。

なるほど。中国の両機関が表立って対立した網之易版WoWですが、こちらは両機関の衆目を厭わないバトルが繰り広げられますが、半年後に新聞出版総署の審査を得て、晴れて正式にリリースされます。

参考:(http://wow.178.com/201002/59859666775.html

こちらは、広電局が文化部の抗議に折れた…ということですかね?

高橋:力関係で言えば、文化部の方が上なので…。文化部は国務院、日本でいう内閣の一部なので、権限は圧倒的に高いです。その意味では、広電局と文化部の戦いは広電局が勝てるわけがない、のですが、そんなに簡単な問題でもない気がします。

結局、審査中にも関わらずリリースされてしまって、市場に出たんだから、まぁいいじゃないか、という側面から正式リリースされた面もあると思います。中国は、共産党政権を脅かすものではない限り、先行している違法状態を後から法改正などによって合法的な状態にするという手法をよく取りますので、その手法の一環だと思います。

その後に似たような案件としては、2018年のモンスターハンターの件があると思います。こちらは文化部の審査を通ったのにも関わらず、またもや広電局が出版番号を出さず、3日ほどで配信停止になりました。高橋先生こちらもWoWと同じ事が起こっていると考えてもよいでしょうか?

高橋:考えにくいと思います。中国政府は一度やってしまった失点を学び、同じ過ちはしないようよく考えている政権です。やはり、モンハンについては判断が変わったと考えるのが妥当でしょう。例えば、最初はまぁいいかくらいに思っていたのが、世界中での大ヒットゲームですし、やはり外国企業にこれだけチャイナマネーを持って行かれるのが嫌になったとか・・・

自国産業を守るのは中国ではよく見られる現象ですよね。

中国での出版物、ゲーム配信における広電局、文化部の立ち位置と関係を法律や経緯、現状を含め皆さんに理解して頂いたかと思います。中国でゲームをリリースすることは簡単な事ではないですね。

最後に2018年を振り返って…

最後に2018年を振り返って、今後の中国のゲーム業界について考えてみたいと思います。2018年では怒涛の変化がおきまして、4月に広電局が出版号の付与を停止、6月15日以降は文化部のネットゲームの審査登録が出来なくなったという話が出てきます。文化部審査登録サイト「中国文化市場網」では内部調整の為と説明されています。

なぜ2018年にこれだけ大きな動きがゲーム業界に起こったのでしょうか?

高橋:まだまだ中国政府がゲームを分かっておらず、右往左往しているイメージがありますね。実は、私は中国でゲームが解禁になるとは思っていませんでした。というのも、本と違い、ゲームには特定のコマンドを入れたときのみ動く、「裏技」と呼ばれるものがあるからです。例えば、特定のコマンドを入れたときにゲーム内で天安門事件の映像や劉暁波の映像が流れるゲームが中国で流通していたらどうします?

中国政府は許可しないでしょうね。

高橋:このように、ゲームの検閲は本に比べ極めて難しいんです。なので、ゲームの場合、単なる出版社の自主的・忖度に頼った規制ではなく、ゲームプログラムと流れる映像、音声を全て見せた上で審査という形になるような気もします。中国政府内でゲームをどのように規制するか、どこまで規制するかで今揉めているのではないでしょうか。

12月に、新たに「網絡遊戯道徳委員会」というものが出来、CCTVでも発表されました。いくつかのゲームの審査が行われ、中国ゲーム業界の光明とも取れますが、これについて、先生はどのようにお考えですか?

高橋:先ほどの話と矛盾するようですが、このような委員会ができたこと自体、やはりゲームの発売本数に審査が追い付かず、とりあえずは、本の出版で行っていた出版社の自主的・忖度的規制をゲームでもやろうとしているのかなと考えられます。「明確に何がダメ」と言われているわけではない自主規制を促すものなので、自主規制により表現の自由度が下がり、中国のゲームはつまらないゲームばかりになるのではないかと心配します。しかし、先ほど申しましたように、中国への改革派が裏ワザとして中国政府によろしくないメッセージが見れるゲームを出す可能性もあり、今後この委員会の業務内容も含めて大きな変化があることは当然予想できます。

最後に中国法律を研究してきた経験を踏まえ、今後中国のゲーム業界を取り巻く環境がどう変化するか、お考えを聞かせてください。

高橋:先にも申しました裏技による隠しメッセージという手法で審査を通過できるという理由からか、中国はゲームの正式導入にかなり消極的だったイメージがあります。しかし、中国国内での爆発的なスマホの普及で、外国のアプリゲームが入って来て、規制をかけながらゲームを許すという方向に舵取りをせざるを得なくなったという印象です。

しかし、これは中国にインターネットが入ってきたときと似ていると思います。規制のない自由な空間がネット上にでき、中国の民主化が進むと改革派は期待しました。しかし、現在は中国のインターネットは中国政府が管理することによって、誰がどんなサイトに何を書きこんだかを政府が監視するツールになってしまいました。ゲームも規制がなされ、中国政府が国民を監視ツールになりかかっているのではないかな、という気がします。

先生、本日はありがとうございました。大変勉強になりました。また出演お願い致します。

高橋:こちらこそまたよろしくお願いいたします。

本日の動画ここまでです。ありがとうございました!

高橋孝治氏 プロフィール

日本文化大学法学部卒業、法政大学大学院修了(会計修士・MBA)。都内社労士事務所に勤務するも中国法の魅力にとりつかれ、勤務の傍ら放送大学大学院修了(修士(学術)研究領域:中国法)。後に退職・渡中し、中国政法大学刑事司法学院博士課程修了(法学博士)。現在、立教大学アジア地域研究所特任研究員。研究領域:比較法(中国法・台湾法)、中国社会を素材にした法社会学。特定社労士有資格者、行政書士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会、2015年)、『中国年鑑2018』(共著・中国研究所(編)、明石書店、2018年)など。『時事速報(中華版)』(時事通信社)にて「高橋孝治の中国法教室」連載中。

レポーター紹介!

2010年に設立されたアニメ・ゲーム専門の広告代理店の北京動卡動優文化傳媒有限公司有限会社(北京MYC)。中国のアニメ市場の消費力データを有し、アニメ・コミック・ゲーム(ACG)の分野で、中国市場を狙う企画から販売促進まで一連のサービスをワンストップで提供。2016年に日本支社(株)MYC Japanも設立。

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